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GFMIの並列運転をつくろう!

事前同期(振幅・周波数・位相)+ドループ制御による電力分担+ACG SDK実装例

原文著:Shu WANG (imperix) December 31, 2025 TN172

本ノートでは、グリッドフォーミングインバータ(GFMI)の並列運転を紹介し、TPI 8032 プログラマブル・インバータにおける ACG SDK を用いた実装例を示します。

GFMIの並列運転入門

グリッドフォーミングインバータ(GFMI)とグリッドフォローイングインバータ(GFLI)は、マイクログリッドシステムで広く用いられるインバータの2つの基本カテゴリです。

一般に、GFLIは高速な動特性を持つ電流源として捉えることができ、系統と同期するように出力を素早く制御できます。
そのため、GFLIの並列運転は通常、容易かつ低コストで実現できます。

一方、GFMIは比較的動特性が遅い電圧源として表現でき、並列運転には追加の考慮が必要です。GFMIの並列運転には、主に次の3つの課題があります。

  1. 電圧制御器同士の干渉(ハンチング/発振)
    GFMIは出力電圧を調整するための電圧制御器を備えています。
    複数の電圧制御器が共通接続点(PCC)に並列接続されると、PCCの電圧を同時に調整しようとして互いに“競合”し、系統電圧の振動(発振)を引き起こす可能性があります。
  2. 事前同期(Pre-synchronization)の必要性
    単独運転時には、各GFMIの出力電圧はPCCの電圧と比べて位相・周波数・振幅が異なる場合があります。
    しかし、インバータを並列接続する場合、この状態のままでは接続できません。
    したがって、物理的に接続する前に、インバータ電圧をPCC電圧に一致させる事前同期プロセスが必要です。 事前同期なしに異なる電圧同士を接続すると、PCCに大きな(場合によっては破壊的な)過電流が発生し得るほか、電圧制御器の不安定化を招くおそれがあります。
    また、系統の位相・周波数が急変すると、許容される周波数変化率(RoCoF: Rate of Change of Frequency)を超過し、系統に接続された他機器に損傷を与える可能性もあります。
  3. 並列機間の電力分担(Power-sharing)
    系統内でGFMI同士がどのように電力分担するかも重要な検討事項であり、特に定格出力の異なるGFMIを並列運転する場合に顕在化します。
    一般にGFMIは出力電圧の位相と振幅を設定できるため、電力分担に参加できます。
    電力分担を明示的に制御する方法として、インバータ間通信を用いることも可能ですが、その場合はシステムの複雑性が増加します。
歴史的には、同期発電機の並列運転に対してさまざまな解決策が開発されてきました。

これらの手法は、グリッドフォーミングインバータの並列運転にも適用できます。ドループ制御(Droop control)[1]は、通信を必要としない確立された制御方式であり、 並列接続された電圧制御器同士の競合問題を回避できます。
さらに、ドループ係数の選定により、GFMI間の有効電力および無効電力の分担を調整できます。

本テクニカルノートでは、TN169で開発したドループ制御器を、GFMIの事前同期機能を追加してさらに発展させます。
また、ドループ係数が電力分担へ与える影響についても取り上げます。

GFMIの事前同期(Pre-synchronization)

事前同期プロセスを説明するために、2台のグリッドフォーミングインバータと負荷から構成されるマイクログリッドを考えます。
GFMI1を系統へ接続する時点では、共通接続点(PCC)の系統電圧は、すでにGFMI0によって確立されています。

GFMI1を適切に接続するには、リレーを閉成する前に、GFMI1の電圧をPCC電圧に同期させる必要があります。
というのも、電圧制御器の動特性は比較的遅いため、GFMI1がPCC電圧に一致するように出力電圧を瞬時に調整することはできません。

このように、リレー閉成前に行われる同期プロセスを「事前同期(Pre-synchronization)」と呼びます。


対象システム:負荷を有する2台のGFMI並列系
事前同期を実現するには、GFMI1がPCCの電圧 vPCC を計測し、自身の出力電圧 v1 を制御して vPCC に一致させる必要があります。
このプロセスは、次の3つのステップに分けられます。
  1. 電圧振幅の事前同期
  2. 電圧周波数の事前同期
  3. 電圧位相の事前同期
> 各ステップでは、補正項を算出するために比例積分(PI)制御器を用います。
積分項の作用により、定常状態では v1 と vPCC の間の誤差を概ねゼロ(近似的にゼロ誤差)まで低減できます。

振幅の事前同期(Pre-synchronization of amplitude)

ループ制御を用いることで、有効電力および無効電力の流れは、電圧振幅 V と周波数 ω を独立に制御することにより分離(デカップリング)できます。
したがって、電圧振幅の事前同期は、周波数および位相の事前同期とは独立(デカップリング)されたものとして扱うことができます。 [2]

電圧振幅は、位相情報を用いずに、静止座標系(αβ0)で算出できます。

電圧指令の調整は、電圧基準値 Vref を直接調整する方法、またはドループ制御器の無効電力入力 Q を調整する方法のいずれでも実現できます。
ただし後者の方法は、無効電力分担が不正確になる可能性があり、さらに線路が主に抵抗性である場合(すなわち、無効電力が周波数にも依存する場合)には適用できなくなる可能性があります。

振幅の事前同期の制御ブロック図を以下に示します。
PI制御器の出力は、ドループ制御器の Vref に対して直接フィードフォワードされます。単独運転時に電圧制御器へ影響を与えないよう、PI制御器の手前にスイッチを設け、 事前同期が無効(sync = 0)のときは入力が0となるようにしています。
さらに、代数ループを回避するため、V のフィードバックには遅延ブロックを追加しています。


振幅事前同期の制御ブロック図

周波数および位相の事前同期(Pre-synchronization of frequency and phase)

周波数および位相の事前同期を実現するには、vPCC の周波数と位相を計測するためにPLLが必要です。
本ノートでは、負荷変動時の系統電圧外乱に対する耐性を高めるため、DSOGI-PLL を使用します。

周波数と位相の事前同期は独立ではありません。
実際、位相の事前同期は、GFMIの周波数基準を増減させることで実現できます[3]。
しかしこの方法では、位相の事前同期は周波数の事前同期が完了した後に開始する必要があります。
そうでない場合、周波数が系統と同期していない状態で両方の制御器が周波数基準を調整しようとして、周波数が発振する可能性があります。

この発振問題を避けるため、まず周波数の事前同期を有効化し、周波数誤差が所定のしきい値 Δfth 未満になった時点でのみ位相の事前同期を開始します。
本ノートでは、このしきい値を 0.2 Hz に設定します。
周波数同期のブロック図を以下に示します。


周波数事前同期の制御ブロック図
位相の事前同期では、いずれかの角度が 0 または 2π にラップする際の不連続を避けるため、位相誤差は角度差の正弦 sin(Δθ) を用いて算出します。
角度差が小さい場合、sin(Δθ) は Δθ と近似できます。
位相同期のブロック図を以下に示します。


位相事前同期の制御ブロック図
周波数および位相の補正項 Δω と Δθ は、以下に示すとおり、ドループ制御器 P-ω にフィードフォワードされます。


周波数・位相事前同期の全体構成
電圧振幅、周波数、および位相の誤差がゼロになれば、事前同期は完了し、リレーを閉成できます。

リレー閉成後は、事前同期を無効化し、補正項は事前同期終了時点の値を保持して一定とする必要があります。
これは、PI制御器の入力を単にゼロに設定することで実現できます。

ドループ制御器間の電力分担(Power sharing between droop controllers)

2台のグリッドフォーミングインバータ間で有効電力を分担させるために、周波数ドループ式では係数 m0 と m1 に異なる値を用いることができます。

定常状態では、両GFMIの周波数参照が等しい(ω0* = ω1*)ため、 電力分担比 P0/P1 は m1/m0 によって定まります。以下にその関係を示します。

一方で、負荷ステップが発生した場合、ドループ係数が異なると周波数に振動(発振)が生じる可能性があります。
ここで、送電線における有効電力の潮流を次のように考えます。

負荷ステップが t = t0 で発生すると、t = t0 において P0 と P1 は、上式で定まる別の値へステップ状に変化し、その後、ゆっくりと定常値へ収束します。
この過渡期間中は、2つの周波数参照が一致しません。
その結果、各GFMIが設定する電圧間に位相ずれが生じ、2台のインバータ間で有効電力が振動(往復)することになります。
この影響は実験結果でも確認できます。

過渡時の振動を減衰させる一つの方法として、比例ドループ制御器に微分項を追加する手法が考えられます[4]が、これは本ページの範囲外とします。

imperix ACG SDKによる実装

以下で提供する制御モデルは、imperix ACG SDK のブロックセットを用いて Simulink 上で実装されています。
これらのモデルは、オフラインシミュレーションでシステム挙動を再現できるだけでなく、TPI 8032 上でリアルタイム実行するためのコード生成にも対応しています。
TPIに関する導入ガイドは 「Getting started with the TPI 8032」 に記載されています。

これらのモデルを実行するための最小要件は次のとおりです。

・imperix ACG SDK 2024.2 以降
・MATLAB Simulink R2016a 以降
・Simscape Electrical(シミュレーションのみ)

グリッドフォーミングインバータの事前同期(Pre-synchronization)を以下に示します。


GFMIの事前同期のためのSimulinkモデル

モデルのダウンロードにはNEATアカウントが必要です。
アカウントはこちらのリンクから、ご取得いただけます。

実験構成(Experimental setup)

電力変換器を実験室環境で運用する際の一般的な安全上の推奨事項は TN181 に示されています。

グリッドフォーミングインバータの並列運転に関する実験検証は、3台のTPI を master-slave 構成(SFPケーブルで接続)で使用して実施します。
これは、同一のSimulinkモデルから3台をプログラムする構成を意味します。
GFMIとして動作する2台のTPIは、誘導性送電線を模擬するインダクタを介してPCCに並列接続されます。
GFMI1の接続には、GPOポートで制御されるリレーを使用します。
さらに、GFLIとして動作する3台目のTPIをアクティブ負荷としてPCCへ直接接続します。

必要機材(The required equipments are:) ・TPI 8032 三相インバータ ×3
・ACG SDK toolbox(SimulinkまたはPLECSから制御コードを自動生成するため)
・双方向DC電源 ×1(800 V)
・インダクタ ×6(ここでは 2.2 mH)
・三相リレー ×1
・必要なケーブル一式


実験構成の配線

imperix製品を用いた実験構成
以下の表に、実験条件をまとめます。


実験条件
本実験では、まずGFMI1を未接続のままGFMI0を運転します。
次に、GFMI1がGFMI0に対して事前同期を開始します。
事前同期中、GFMI1の電圧は、以下に示すとおりGFMI0の電圧に一致するように段階的に調整されます。


事前同期中におけるGFMI0およびGFMI1のA相電圧
事前同期が完了すると、リレーを閉成してGFMI1を接続します。
その後、負荷(GFLI)に対して 15 kW の有効電力ステップを印加します。
GFMI0とGFMI1のドループ係数が同一の場合、両者は 7.5 kW ずつ同じ有効電力を分担します。


同一のドループ係数におけるGFMIの有効電力
電力分担に対するドループ係数の違いの影響を調べるため、GFMI1のドループ係数 m1 を2倍にします。負荷(GFLI)に対して 15 kW の有効電力ステップを印加します。

有効電力の分担について、系が定常状態に到達すると、GFMI0とGFMI1の有効電力は概ね P0/P1 ≈ m1/m0 を満たし、理論とよく一致します。
また、前述したとおり、ドループ係数が異なることに起因する振動(発振)が、負荷ステップ後に観測されます。


異なるドループ係数におけるGFMIの有効電力

さらに踏み込むには…(To go further…)

線路が主として抵抗性である場合、PとQのデカップリングにおいて「線路は誘導性である」という仮定は成立しなくなります。
PとQをデカップリングするために、仮想インピーダンス(Virtual impedance)を用いたドループ制御を実装できます。
これは 「Virtual impedance for droop control」 で扱います。

また、制御に明示的な慣性がない点に対しては、同期発電機の慣性特性を仮想同期発電機(Virtual synchronous generator)制御によって模擬できます。
これは 「Virtual synchronous generator」 で扱います。

学術参考文献(Academic reference)

関連資料